【2020年東京五輪で日本がメダルを取るためには】
『先人たちのマラソン哲学 日本のレジェンド12人の提言』月刊陸上競技編集
本日の一冊は、月刊陸上競技の「先人たちのマラソン哲学(2014年1月〜12月号)」をまとめたもの。書店では目にしていたのですが、失礼ながら、表紙が古めかしく、新刊だと気づかず幾度となくスルーしていました。
ところが、これが当たり本。久しぶりに興奮しながら読みました!
宗兄弟、瀬古利彦さん、高橋尚子さんなどマラソン界の頂点を極めた名選手、名コーチの当時の裏話。当時のトップ選手とそのライバル、そしてコーチの証言が一冊にまとまった本はあまり他にはなく、選手・コーチそれぞれの立場から、「マラソンとはいったいどういう存在だったのだろうか?」最後まで興味深く読むことができました。
中山竹通選手も不整地を走るクロスカントリー走に取り組んでいたことが本書で述べられています。有森裕子さんの場合は、海外遠征して標高の高い場所でのクロスカントリー走に取り組んでいました。
小出監督がなぜ、女子マラソンにターゲットを絞ったのか?その意外な理由とは。当時は無名の選手だった有森裕子さんに、「根拠のないあなたのやる気に興味がある。そのやる気を買いたい。」と声をかけた、小出監督。
本文で特に印象に残った言葉は、「精神的なリタイア」という表現。今は、「心が折れる」といったりもしますね。
僕の高校入学と同時に「当校に新しい陸上部監督が就任しました!」朝礼の檀上で興奮気味に紹介されたのが、1988年のソウル、1992年のバルセロナとオリンピック男子マラソンで2大会連続4位入賞を遂げた、中山竹通監督でした。その当時は今ほど走ることに興味がありませんでしたので、「背が高く、怖そうな監督が来たなあ(中山監督の身長は178cm)」ぐらいの印象でしたが、まさかそんな有名な方だったとは知らず。厳しそうというのは、実際当たっていたようです。(笑)
人生で「~たら」「~れば」は禁物ですが、もし僕がその陸上部の門戸を叩いていたなら、どうなっていたでしょうか。1か月で辞めてしまっていたかもしれませんが(笑)結局、運動未経験で入部したのは空手道部でした。そこで僕は3年続け、学生時代には念願のボクシングの道へと進むことになります。
巻末には男子・女子マラソン世界記録、日本歴代記録の変遷も。有森裕子さんをはじめ、往年の選手のオリンピックレース直前のトレーニングメニューも紹介されており、これは資料としても貴重です。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。」という有名な格言がありますが、マラソン界の偉大な先人に学ぶというのはいかがでしょうか。「瀬古利彦」「宗兄弟」「福岡国際マラソンでの激闘」「有森裕子」「高橋尚子」と聞いて、胸躍る方はもちろん、将来福岡国際マラソンや別府大分毎日マラソン出場を目指す人であれば、間違いなく買いの一冊です。
『先人たちのマラソン哲学 日本のレジェンド12人の提言』月刊陸上競技編集
◆本書より
モントリオールでは、試合の前日にステーキを食べた。「試合前は炭水化物を多く摂らないといけない」というような話は、今なら市民ランナーでも知っていることだが、当時は日本代表ですら知識を持ち合わせていなかった。―宗茂
「ペースメーカーは必要か?」あまりにも記録を追いかけすぎていた面があって、逆にペースメーカーをつけることで、出るべき記録に栓をしていたとも言える。―宗茂
やっていることが当たり前という気持ちになってくれば、それをきついと思うことはない。―宗茂
素質の高い人は練習しなくてもそれなりに走れるけど、素質のない我々は「とにかく練習するしかないんだ」と気づかされた。―宗茂
私は川内を「昭和のマラソンランナーだ」とよく言う。平成の今、川内が通用するんだったら、昭和のランナーが通用する時代なんだと思う。
10日ぐらい前にやる30km走で、レースの結果はおおよそ読めた。
42.195kmを走るには、40kmぐらい余裕を持って走れないと厳しいよね。
目に見えることだけが練習ではない。今はすぐ近くのコンビニに行くのに、自転車に乗る。そんなことをしないで、まず歩く。歩くことが、一番のストレッチになる。―瀬古利彦
マラソンの一番の魅力は、練習を“やったもん勝ち”ということ。
人から言われてやる世界は、たかが知れている。
人間は走れてくると、嫌いだったものも、好きになる。楽に走れるようになるから。
今の選手はトラックがあって、駅伝があって、ついでにマラソンだから、マラソンレースができない。そうではなくて、マラソンが主なら、何でもできる。―有森裕子
マラソンをしっかり走りきるには、身体の軸を作って、コアを鍛えないといけない。山道を含めて不整地を走り、バランス感覚を養う。私は小学生のうちからやった方がいいと思う。―有森裕子
勝つことと、記録を出すことは違う。―中山竹通
「こなせる体力」ではなくて、「勝つにはこれだけやらなければダメだな」という練習をやる。体力がある、ないではない。
国内で勝つだけのトレーニングと、世界で勝つためのトレーニングには、大きな隔たりがある。―小出義雄
自分の中で勝つ方法を考えようと思った。レースの中に勝負のポイントを入れる。相手に「ラストスパートが速い」と思わせる。「森下は怖い」と怖じけづかせる。それを生活の中にも落とし込んでいこうと思って、普段から笑わず、怖い顔をしていた。―森下広一
私は現役時代、トイレに行って便器が3つあったら、必ず真ん中に立った。1番になりたいから、常に真ん中を意識する。―森下広一
「今日の練習、きつくてイヤだな」と思う気持ちが芽生えた時こそ、実は一番伸びる時。
とても楽しい42.195kmでした。―高橋尚子
『先人たちのマラソン哲学 日本のレジェンド12人の提言』月刊陸上競技編集
管理人:トレイルランナーズ大阪代表、米国UESCA認定ウルトラランニングコーチ。大阪府生まれ。日本では数少ないマラソンとトレイルランニングの両面を指導できるランニングコーチ。大阪府出身。2012年に起業、実践と科学的知見に基づいた指導は「具体的でわかりやすい」と初心者の指導に定評がある。歯に衣を着せぬストレートな物言いが評判。
自身も現役のランナーで過去15年間で100大会以上に出場をし、ランニングを通じて日本中・世界中を飛び回るという「夢」を実現し、28か国30地域のレースに出場。
2012年から『はじめてのトレイルラン』教室を開講し、1万人超が体験する人気に。山でのマナーや安全な走り方の啓蒙活動にも注力し、グループで走る楽しさを伝え続けている。