
本日ご紹介するのは、『駅伝マン 日本を走ったイギリス人』。著者のアダーナン・フィンは、イギリスの新聞“ガーディアン”紙の編集者兼フリージャーナリスト。 ケニア滞在経験を著した代表作『ケニア人と走る(未邦訳)』で、サンデー・タイムズ紙の年間スポーツ書部門賞などを受賞し、一躍注目を浴びます。著者自身もフルマラソン2時間55分の記録を持つ、ランニングをこよなく愛するランナーです。
そんな著者が日本のランニング熱に興味をもって、日本語も話せないのに、京都に家族とともに半年間滞在し、箱根駅伝から実業団駅伝、そして千日回峰に挑む比叡山の僧侶にまで体当たり取材。外国人目線から見た、「日本のランニング文化」や「長距離走界の慣例」を、海外事情と比較しながら描いたもの。
外国人ランナーから見た、日本のランニング文化はどう目に映ったのか。
気になりませんか?
タイトルで損をしており、ちょっと残念なのですが、これが実に面白いのです。
早速、中身を見ていきましょう。
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「1000日も移動し続けると、その疑問について考えて多くの時間を費やすことになる。自らの人生について省察することになる。つまり、移動しながら瞑想するようなものです。だから、急ぎすぎるのもよくない。仏教の世界では、自らやけどを負って痛みに耐えるような修行もあります。しかし私の考えでは、それは千日回峰行が目指すところではありません。人生とは何か、どう生きるべきかを瞑想する時間が大切なのです。」
「学ぶことは永遠に続きます。大学を卒業したからといって、そこで学びが終わるわけではない。千日回峰行は終着点ではなく、挑戦はいつまでも続く。人は人生を愉しみながら、新たなことを学んでいくのです。」
ベアフットランニングを始めた当初は、すべてが順調に進んでいた。自己ベストを何度か更新し、気分も最高だった。そんなとき、過去のまちがった走り方を忘れないために、昔のような踵着地でわざと走ってみたことが何度かあった。高速道路で車のギアをセカンドに入れて、時速100キロ以上の猛スピードで無理やり走るような感覚だった。
ところが、二回目のマラソンのまえに片脚のアキレス腱を痛めてしまった。治療もせずに走りつづけた。そのころの僕はまだベアフットランニングの効果をうたがっておらず、アキレス腱の痛みを精神力で抑え込もうとしていたのだ。
僕のつま先、とくに親指がまったく機能していなかった。足の親指には、錨としての役割がある。走るときの安定性を保ち、まっすぐ前進させる勢いをつける働きを持つのだ。しかし僕の身体は不安定で、体重が踵にかかりすぎていた。
僕は典型的な「動物園の人間」らしい。その愉快な造語は、現代社会で靴を履いて育ち、一日のほとんどの時間を身体に悪い設計の椅子に座って過ごす人間を指すものだった。
しゃがむこと自体は人間にとってかなり低レベルな動作だと主張する。そんな簡単な姿勢をとることに僕がひどく苦労するのは、身体の可動域が完全に機能していないことを意味するものだと彼は指摘した。
「簡単に言えば、これまできみはハンドブレーキをかけたまま走っていたということさ。ブレーキを外せば、もっと速く走れるはずだ。」
ケリーは最近、「マッスル・アクティベーション」(筋肉の活性化)と呼ばれる新しい手技療法を学んだという。体の一部が適切に機能しなくなると、ほかの部位が必然的にそれを補おうとする。すると、各部位が本来の働きをしなくなり、身体全体の動きに影響が出はじめる。それが、この療法の前提となる考えだった。
走ることだけではなく、職場でのストレス、悪い姿勢、あるいは睡眠不足などを感知すると、身体が酷使されていると脳が判断し、動きを止めようとすることがあります。実際には、一日中座っているだけだったとしても、身体内での緊張やストレスが、そういった事態を引き起こすのです。
わずか一瞬の足の着地そのものにこだわるのではなく、頭を上げ、首をまっすぐに保つことに集中したほうがいいと教えてくれた。大股にならないように、速いテンポのストライドを心がけろ、と。
日本の女子選手が国際舞台で大活躍できるのは、箱根駅伝というプレッシャーがないから。
マーラ・ヤマウチはこう説明する。日本の選手たちがトラックや短い周回コースで練習をするのは、長いランに適した場所がないからだ、と。
舗装道路での練習は、関節、腱、じん帯、筋肉にダメージを与える可能性があるので避けましょう。草地、ウッドチップ、土の上で練習すればするほど、走りの質は上がるものです。私が担当する選手たちは、練習の90パーセントを柔らかい地面で行っています。-アルベルト・サラザールのランニング黄金律10カ条
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タイトルに「駅伝」とあるので、著者が出場した駅伝中心の内容なのかなと思いましたが、比叡山の千日回峰から、ベアフットランニングまで多岐にわたりました。村上春樹の本が登場したり、川内優輝選手の生き方にまで話が及ぶとは、読み始めは思いもしませんでした(笑)大行満大阿闍梨がイギリス人である著者に、ダイアナ妃の死について、考えを求めるシーンは実に興味深いです。
イギリス人ランナーから見た、日本のランナーの「強み」「弱み」がわかった気がしました。
著者自身の体験談から、よりよいランナーになる上での走りのヒントも多く、これは掘り出し物の一冊です。
『駅伝マン 日本を走ったイギリス人』アダーナン・フィン・著 Vol.059
▼目次
謎だらけの日本の長距離界
ロシア経由、日本への旅路
不思議の国ニッポン
和をもって駅伝となす
最初の難関
大学陸上部の練習に参加してみた
ライバル心と団結心
日本の伝統的な走り方
人はなぜ走るのか
初めての駅伝観戦

管理人:トレイルランナーズ大阪代表、米国UESCA認定ウルトラランニングコーチ。大阪府生まれ。2012年にランニングコーチとして起業し、全国のランナー500人以上を個別指導。説明は「わかりやすい」と学生からシニアまで初心者の指導に定評がある。自身も現役のランナーで実践的な指導は具体的。ランニング歴は24年以上、世界一周ランを目標に砂漠や北極マラソンなど28か国のレースに参加。2012年3月に『はじめてのトレイルラン』教室を開講し、11年間でのべ1万人以上が集まる人気に。全国で山でのマナーや歩き方、走り方の啓蒙活動を行っている。ランニングを通じて日本中・世界中を飛び回る「夢」を実現し、「グループで走る楽しさ」の魅力を伝え続けている。