【登山から学ぶ、究極のリーダーシップ論】
『エゴがチームを強くする』アリソン・レヴァイン・著
トレイルランナーズ大阪の安藤大です。
登山の自伝や登山から学んだ名言集は巷に溢れていますが、本書は異色のビジネス本、リーダーシップ論についてです。リーダーシップ論についての本も数多く出ていますが、登山をテーマにした本は珍しいのではないでしょうか。
この地球上の誰もがリーダーシップを発揮する立場にいます。特に最近は私の身近でもトレイルランで山へ仲間を連れて行く方が増えていますが、企画した人、リーダーがどうリードするかが安全にもつながります。またリーダーが状況によって、その場を離れる可能性もあります。そういう意味で、誰もがよりよいリーダーになる必要があり、この本の著者の数多くの登山経験から得た話は学びになると思います。
本日ご紹介する一冊は、その「リーダーシップ」をあらためて考えさせられる、隠れた名著です。
著者は、大手金融機関のゴールドマン・サックスからアメリカ人初のエベレスト遠征隊長として、七大陸最高峰登頂を達成した、異色の経歴の持ち主。
このような話を聞くと、「頭のキレるエリートで、資金も潤沢」と我々はすぐ想像してしまいますが、実際にはゴールドマン・サックス入社もぎりぎり、エベレスト登山にあたっての資金難、スポンサー探しに奔走する日々..スポンサーのフォードからは車を「無料でプレゼントします」と提案を受けるも、自宅の駐車場と車の維持費が支払えないため、断ることに。順風満帆というより、むしろ波乱の人生を歩んでいます。
さっそく、内容を見て行きましょう。
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人は環境はコントロールできないが、環境に自分がどう反応するかはコントロールできる。
みんな健康のためなら大変な時間と労力(お金)をつぎ込むのに、リーダーシップのスキルアップに時間をかけて努力する人はほとんどいない。
皆リーダーの指示に従うことはできても、リーダーとしてチームを率いる方法は知らなかったのだ。
他のメンバーにもリードさせて強いチームを作る必要がある。年功序列にこだわらず、他のメンバーにも責任を持たせて非常に重要な決断を下させよう。
私たちは進歩というのは決まった方向に進むことだと考えがちだが、実際は違う。ゴールにたどり着くために、逆にそのゴールから遠ざからなければならないときもある。
私が求めていたのは、単にエベレストに登りたい女性たちではなかった。登山の経験わや他の女性と分かち合い、星条旗の付いた上着を身にまとうことを誇りに思うような女性たちとチームを組む必要があった。
タイミングと近さと共通のゴールだけでは結束したチームづくりには不十分。チームワークというのさ互いを思いやり、助け合い、力を合わせて勝利を勝ち取ることだ。あなたが幸運にもチームメイト選びに意見が言える立場なら、三つのEを探そう。経験、専門知識、技術、そしてエゴだ。
体力とか技術が優れていたからできたのではない。意志こそ力だ。意志というのはお金で買うこともできないし、第三者がつくってあげるものでもない。自分自身の心の中から湧いてくる。ー田部井淳子『エゴがチームを強くする』
きちんと予防策を取らなくても大丈夫だったという経験が50回重なれば、その人にとってはもうそれが当たり前になる。しかし51回目も大丈夫だとはかぎらない。
私自身、これまでに山で経験したなかで特に怖い思いをし、危うく命を落としかけた出来事は、必要な装備を持って行かなかったせいで起きている。
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特に心に突き刺さったのは、この言葉です。
「過去の遠征で何をしたかは問題じゃない。大切なのは今、山で何をしているかだ。」
我々はつい「登山経験○年、トレイルラン経験○年」「この山に登ったことがある」と過去の自分の経験を過信してしまいがちです。ところが、本書では過去に幾度となく登った山でもほんのささいなミスで事故や死亡につながるケースがでてきます。読んでいて、身の引き締まる思いでした。僕もこれまでに250回以上のイベントを開催し、2,000人以上を引率していますが、こうした経験は頭から忘れ、あらためて一つ一つの山と真剣に向き合いたいと思いました。
この本は山を通じて、リーダーシップについて考えさせられるエッセンスがギュッと詰まった本です。特に日ごろ一人でも山に行かれる方や、山へ仲間を引率することのある方は、ぜひ読んでみてください。
【登山から学ぶ、究極のリーダーシップ論】
『エゴがチームを強くする』アリソン・レヴァイン・著
管理人:大阪府生まれ。トレイルランナーズ大阪代表、米国UESCA認定ウルトラランニングコーチ。2012年に起業、日本では数少ないマラソンとトレイルランニングの両面を指導できるランニングコーチ、マラソン作家。指導歴12年で、初心者にもわかりやすい指導と表現で定評がある。
自身も現役のランナーで過去15年間で100大会以上に出場をし、ランニングを通じて日本中・世界中を飛び回るという「夢」を実現し、28か国30地域のレースに出場。
2012年から『はじめてのトレイルラン』教室を開講し、1万人超が体験する人気に。山でのマナーや安全な走り方の啓蒙活動にも注力し、グループで走る楽しさを伝え続けている。2024年10月にAmazon(アマゾン)より電子書籍『極寒!はじめての北極マラソン』を初出版。